民間武術探検隊

民間武術探検隊への道

 

 時折、「中国語をやっていて、良かったぜ〜」と心の底から思うことがある。
 これもそんな話しの一つ

 *これは、1995年に書いたものです。
 


 

第二章 漂亮小姐老師

 

 編班口試(クラス分け口頭試験)を知り得る限りの武術絡みの単語を駆使し、はったりで切り抜けた わたる はたいして実力もないのに「とりあえず中国語がちったぁ分かる班」に振り分けられた。面子はほとんどが3年生で2年生はちらほらといった感じだ(ちなみにボクは2年生)。「ま〜なんとかなるだろ」と天性のい〜かげんさで初授業に臨んだのであった。

 我々の前に姿を現した老師は「いかにも人のよさそうな中国人」で、中国のインテリに良く見られる「レンズの厚い黒縁眼鏡」も装備している。名前は「張鏡銭」(男推定年齢40〜50才)だ。

 実にほのぼのとした人柄の老師で、ボクはこの張老師がとても好きになった。そして初めての授業は自己紹介やなんやらで終了し、休み時間に入った。
 (ちなみに授業は8:00から50分授業が4回で12:00に終了だ。)

 そして 2時間目の授業が始まった時、張老師が一人の『漂亮小姐』を連れて教室に入ってきた。
「おっとー、漂亮小姐だ。新しい生徒かな?らっき」
と思っていると「もう一人の老師です。名前は黄紅(huang2hong2ホアンホン)だよ」と張老師が黒板に「黄紅」と書いて紹介する。
「おー、なんと老師だったとは。ボクらと同じ位の年なのに、凄いぜぜぜぜっ。名前もかわいいぜ。」
と秘かに喜ぶボクであった。
 その張老師の紹介を聞いた漂亮小姐黄老師「っもう、違います。黄『宏』ですぅ。」と笑いながら黒板の字を訂正する。
 「紅」と「宏」は発音が同じなので、張老師がちゃめっけを出して「黄紅」と書いたのだ。これから張老師と黄老師と交代で我々の授業を見てくれるとの事。
 この時ボクは「この班で良かった〜 シミジミ」と思ったのであった。そして、「黄老師の授業は特にがんばろー」と心に誓ったのである。張老師も好きだったが、黄老師はもっと好きなボクであった。

 当時使用したノートから、どんな事をしていたかを少し書いてみよう。ある構文を説明し、それを使って自分で文章を作るというのをやった時のボクの作ったものを紹介しよう。

 「八極拳以外にどんな拳法ができますか?」
 「陳家太極拳以外の他の太極拳は動作がゆっくりです。」
 「八極拳を一目見て、とても好きになりました。」
 「公園で翻子拳を練習しました。」
 「陳家太極拳小架式が出来ると聞きましたが、本当ですか?」
 「君の剣の具合はどう?」
 「武術の基本功はとっても重要です。」

等々、非常に偏った内容の文章を作っていたようだ。
 しかし、黄老師もなかなかヤル人で、こんな内容の文章でもいろいろと真面目に添削してくれた。
「う〜ん。昔は陳家太極拳とか楊家太極拳とか言ったけど、最近はあまり〜家って言わないわね。〜式ね。」
 この日以来、黄老師の教えを守り、ボクは「〜式」と言うようになったという事実はあまり知られていないだろう。また、「基本」という単語を使って何か文章を作りなさい、と言われた時、「武術の基本功はとっても重要です。」を作ったら「『基本功』は、一つの単語だから別のを作ってね。」とにっこり。「〜だけど、〜だ」の構文の時「黄老師はとっても漂亮だけど、話すのがとっても速いっす」を発表したら、「『漂亮』と『話すのが速い』には因果関係がないから、これはだめね。」と一蹴されてしまった事もあった。まーこんな感じで楽しい授業は続いたのであった。

 この時のノートに編班口試の後に貰った問題のプリントが挟まっていたので紹介しよう。

1.名前は?年は?
2.家はどこ?家族は?
3.中国語を何年した?他に外国語できる?
4.今日の天気は?晴れ?曇り?
5.今日は何月何日何曜日 ?
6.どんな事が好き?スポーツ?音楽?それとも他に何か?
7.中国の有名な文学作品読んだ事は?どんな著名な作家を知ってる?
8.北京に来たことある?北京の有名なところでどこを知ってる?
9.中国の映画見た事ある?それは何?
10.簡単に日本での学生生活を話して。

で、5問目までの回答が困難だったら、そこで終わり。
6問目や10問目がボク向きの質問だったんだなー。
良く憶えてないけど、例によって「武術をしていまっす。」なんて答えたんだろう。

 重要(?)語句解説

○レンズの厚い黒縁眼鏡
 中国のインテリに多く見られる定番の品。
 第一次民間武術探検で通訳をしてくれた法律を学ぶ「ちょー君(仮名)」もこれを装備していた。(ちょー君に関しては、いずれ外伝で)

○班(ban1バン)
 クラスとかの意味。組織(勤務、学習)の意味にも使う。
 「常松教室通背班」とか使う。上班(shang4ban1シャンバン)というと出勤するという意味。

○家、式、氏
 当時はそうだったが、数年前ある方からある指摘を受け、ボク自身は現在「氏」を使用している。
 現在中国では、武術協会などが発行する正式文書では「式」が多く用いられ、民間では「氏」と言っているようだ。ちなみに「式」も「氏」も同じ発音で、口で言った場合どちらかはわからない。

 


 次章予告

 留学生楼に潜む黒い影

 深夜にこだまする断末魔の叫び

 ついにヤツらが襲ってきた!

 

 刮目して待て!次章「恐怖の体験」
(心臓の弱い方や、気持ち悪い事の嫌いな方は読まないで下さい。)

 

 2000.05.25 民間武術探検隊 わたる

 

次章 恐怖の体験

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