民間武術探検隊

民間武術探検隊への道

 

          西安の茶パツパンダ〜→
  

 

 *これは、1995年に書いたものです。
 


 

第五章 幻の剣を求めて

 拳法ズボンや布鞋はなんとかゲットしたが、器械はなかなか見つける事が出来なかった。いろいろと欲しい器械はあったが、特に欲しかったのは剣だ。

 剣はデパートや体育用品店にあることはあるが、それはボクの求めるようなシロモノではなかった。ボクが求めているのは、生粋の民間武術家御用達の「本物の剣」なのだ。
 何をもって本物とするのか?当時のボクの入手していた情報によると、「堅くて軟らかいのが良い。」という事であった。剣先を指で押さえると、かなりしなり、それでいて硬度はある、というのが名剣の条件で、有名な剣に「龍泉古剣」というのがあるという事であった。これは「龍泉」という土地で作られるという名剣だ。
 北京市内で「龍泉宝剣」という物を見つけたが、軟らかさが足りなかった。それに名前が一字違いなのも類似品っぽくて、なんかいやだった。あちこち出掛けてはいろいろと探してみたが、思うような剣は見つからず、北京での留学生活は終わった。後は10日程の期間で西安、洛陽、上海を回る予定だ。その間になんとか見つかれば良いが・・。

 洛陽では少林寺へ行ったり、朝の公園で閉鎖的な民間武術家を目撃したり、いろいろな事があったが、その話しは別の機会に譲る。
 我々が西安に行った時、ちょうど「武術国際激(+しんにょう)請賽」という国際的な武術大会が行われていた。街のあちこちにポスターが張られていたが、その大会の見学は我々の予定には入っていなかった(T^T)。
 しかし、たまたま両替のために立ち寄ったホテルが、大会参加者の宿舎になっていたのであった。ホテルの庭では各国から集まった選手が練習をしていた。ちなみにボクは見る事は出来なかったのであるが、友人Aは一部で有名な「ちょっと変わり者」との噂のある八極使い中川氏が八極拳を練習しているのを目撃している。
 ふと玄関のあたりを見ると壁に槍やら大刀やら、何やら輪っかが一杯ついた訳の分からないような怪しい器械までもが立てかけられ、その直ぐ下には木箱に剣や刀や九節鞭などがびっしりと並べられていた。そして、これまた怪しげな武器商人と思しき面々がたむろしていた。
「むむむむ」と近寄って見ていると「あんちゃん、安うしときまっせ。」と言う感じで、怪しげな武器商人が声をかけてきた。
 早速品定めをする。しかし、それは表演用の刃が薄い物で、ボクの求める「民間武術家御用達」の器械ではなかった。怪しげな武器商人に「ちっちっち。あまいな。ボクが求めているのはこれではないんだ。」と目で告げると(口で告げられなかったため)その場を離れた。

 そんなこんなで、とうとう最後の訪問地上海に来てしまった。ここで何とかしなければ、と気合いを入れ、上海駅から宿舎に向かうバスの中から売っていそうな店を探し、バスの路線番号を記憶する。
 上海では自由時間はほとんどなかったが、予定されていた蘇州見物をばっくれて、一人記憶を頼りに公共汽車に乗り込んだ。途中、何度か路に迷ったものの、あたりをつけていた体育用品店と京劇用品店にたどり着く事が出来た。
 しかし、体育用品店には例の「龍泉宝剣」しかなく、京劇用品店では三節棍をゲットしたが、剣の良いのは無かった。
「どうしようかな〜。龍泉宝剣でいーかー」と悩みつつ、しつこく街をぶらぶらしていると、
「アナタは何をしているのですか?」と日本語で声をかけられた。
 見ると同年代位の兄ちゃんがにっこり笑って立っている。ちょっと怪しいヤツだなと思いつつも、話しをする。
「剣を探している。」と話すと
「おー、それならワタシ、売っている所を知っています。」と言う。
「ラッキ。でも、ちょっちヤバイかな。」と思いつつも、相手は一人だし、いざとなれば何とかなるだろうと思い、案内を頼んだ。
「さんざん探したけど、見つからなかったんだよなー」と言うと
「そうです。外国の人には分からないと思います。でも、ワタシなら大丈夫です。」と自信満々だ。
 途中、アイスの屋台で「食べませんか?」とアイスを買ってくれる。
 さらに途中で「ほかにお土産は買わないのですか?」と聞いてきたので、土産用のお茶が欲しかったボクは、そう言うとお茶屋に入ってくれた。幾つか選んで買おうとすると、「ワタシが買ってきます」と言って品物を持って奥へ行く。金を払おうと思い「幾らですか?」と聞くと「後で良いです。」と言う。
 ますます怪しいなと思ったが、もしかして、とても良い人かもしれないので、とりあえずついて行く。ついた先は、さっきボクが来た体育用品店だ。
「これはとても良い剣です。」と例の剣を見せてくれるが、
「いや〜、こういうんじゃないんですよ。」と断る。
「じゃあ、次へ」って言うんで、次の店に行くが生憎そこも、既にボクが見た店だった。
 こうして、何軒か店をまわったが、全てボクが既にまわった店ばかりで、当然欲しいと思う剣は無かった。
 さんざん歩きまわった後「ワタシは、アナタが何が欲しいのか分からない。」と男は怒り出し、今まで男が立て替えた分を外幣で払えと言うのであった。なるほど。この男、外幣が欲しかったのか。要は、「ちぇんまね屋」だった訳だ。納得納得。
 抜かりのないボクは、全ての価格を記憶していたので、その分を過不足無くきっちりと払うとその男に別れを告げ、結局「龍泉宝剣」を二本買いに、あの店に戻ったのであった。

 

 語句解説

○器械 武器の事。中国語では器械、兵器と言う。

○龍泉宝剣
 龍泉という土地で作られる有名な剣。以前読んだ松田隆智氏の著作の中の「図説中国武術史を読んだ馬賢達師範に龍泉古剣を中国大使館経由で頂いた」というのが頭にあり、ボクは龍泉「古」剣を探した。龍泉古剣と龍泉宝剣が同じものかは?でも、今現在では龍泉宝剣はとっても良いと思う。

○友人A
 ボクと同じ名字を持つ友人。数年後、躰道部主将になる男だが、無類の八極拳好きである。北京でボクと同じ拳法ズボン、布鞋を購入。ズボンはボクのと同じ運命をたどる。友人Aとボクは共に行動する事が多く、武術好きであったため、行動様式も似ており(例 記念写真の時、武術のポーズを取る。手頃な木等があった場合、斧刃脚や打木功の練習をする等)いつしか、「あらいブラザース」と呼ばれるようになった。ボクが上海で幻の剣を求めて街をさまよっていた時、友人Aは前日がぶ飲みした水のおかげで腹をこわし、一人ベッドで唸っていた。
 先日、友人Aからひさびさに連絡があり、今は李英老師の長春八極拳伝習会で練功に励んでいるとのこと。昔の友達が変わらず武術を続けているのは嬉しいことだ。

○中川氏
 八極拳練神会の中川二三夫先生。やはりボクの知り合いが目撃したらしいのだが、場所は渋谷、丁度、李連傑の少林寺が公開されていた頃、映画のポスターの前で、ポーズを取った中川先生、「オレのが上手い」と言ったとか(^-^;あくまでも噂です。独特の雰囲気を持ち、とても功夫のあるお方と聞いてます。

○バスの路線番号
 中国のバスは路線に番号がついていて、それを憶えておけば何とかなる。

○公共汽車
 バスの事。世界で一番人口密度の高い場所と言われている>中国の公共汽車の中

○ちぇんまね屋
 中国には二種類の貨幣がある。外国人が使う外幣と中国人民が使う人民幣。外幣なら、どの店でも買い物ができるが、友誼商店(外人相手の高級な品を売る店)などでは人民幣は使えない。よって、中国人民も外幣を欲しがる。街で外国人である事を見破られるとそっと背後から「ちぇんじまねー?」と声をかけられる。外幣100元を人民幣100数十元と交換しないかと言うのだ。彼らは通称「ちぇんまね屋」と呼ばれる。交換した外幣は闇ルートか何かで儲けられるシステムがあるのだろうか?(よく知らない)しかし、数年前に、この外幣の制度は廃止され、通貨は人民幣に統一された。

 


 次章予告

 とりあえず、書き貯めてあったのは、ここまで!

 この先は気分次第(^-^;

 次のアップはいつだ?

 刮目して待て!次章「????」
 

 2000.06.28 民間武術探検隊 わたる

 

次章 ????

目 次