民間武術探検隊・外伝

−ある隊員の記録−

第四話 おれい

     帰国も近づいたある夜の事。お世話になった安老師を誘って酒でも飲もうと○     ○師兄が提案した。そこで、ぼくと○○師兄は、安老師を誘いに老師の部屋へ向     かった。      途中、○○師兄が     「なあ、しんじん。オレって中国語でなんて言うんだ。」と訊いてきた。     「俺ですか?我(ウォ〜)ですよ。」     「そうか。『うぉ〜』か。」      ○○師兄、例によって呪文のように「うぉ〜。うぉ〜。」と繰り返しながら安     老師の部屋に向かう。      部屋に着くと安老師は誰かと話しをしていたが、そんなのはお構いなしに○○     師兄はずんずん中へ入って行った。そして、安老師の手をしっかと握りしめ、老     師の目を見つめながら「うぉ〜、うぉ〜。」とひたすら呪文を唱え、強引に安老     師を外へ連れ出した。      ぼくは「何だか強引だな〜」と思いつつも師兄について外に出た。安老師も何     がなんだか判らないといった表情であった。      そしてそのままホテルのバーに入って、武術談義をしつつ酒を飲み、さらには、     聞きたくもない○○師兄のカラオケ「北国之春」を聞かされてしまったのである。      しかし、何故、あの場面で「うぉ〜」だったのか?      帰国後、その疑問を師兄に聞くと     「だって、あれだけ世話になったんだから、お礼は当然だろ。」      なんと「オレ」は「俺」ではなく、「お礼」だったのだ。      だって、そう聞こえたんだもん。     「それじゃあ、まるっきり俺が変な奴と思われてしまったじゃないか〜」     と○○師兄は怒っていたが、その件が無くても、充分変な日本人と思われていたと     思うぼくであったが、その事は黙っていた。      語句解説      ○武術談義        興が乗ってきた安老師と○○師兄は、バーの中の机や椅子をどかすと、中で        「この実戦用法はこーだだだっ」とか、暴れ出した。時期的に客が少なかっ        たから良いと思ったのか、関わるとヤバイと思ったのか、店の人は特に何も        言っては来なかった。


第五章 怒りの排打功事件

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